108人目 牛尾治朗さん:ウシオ電機株式会社

会社名:ウシオ電機株式会社
URL:http://www.ushio.co.jp/jp/
公開日:2014年11月11日


108人目の「社長の29歳を振り返る旅」は、
ウシオ電機株式会社の会長、牛尾治朗さんです!
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略歴
1931年 兵庫県生まれ。
1964年 ウシオ電機設立。
1995年 経済同友会代表幹事就任
2000年 DDI(現KDDI)会長就任
2001年 内閣府 経済財政諮問会議 議員 就任
2014年 公益財団法人日本生産性本部 名誉会長就任(現任)

現職
ウシオ電機株式会社 代表取締役会長
公益財団法人 総合研究開発機構(NIRA)会長
日本ベンチャーキャピタル株式会社 取締役名誉会長
公益社団法人 経済同友会 特別顧問 (終身幹事)
公益財団法人日本生産性本部 名誉会長
公益財団法人 ウシオ財団 理事長
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本日は貴重なお時間、ありがとうございます。
今回は、29歳。という年齢を一つのテーマにお話を聞かせて頂きたいと思っています。
そもそも、このインタビューの始まりは、今から5年程前。
僕自身が30歳を目前にした29歳のときに、これからどういった人生を歩み、どのように仕事というものを捉えて取り組んでいけばいいのだろう?自分の軸は何なのだろう?と模索していた時期がありました。
そのときに、さまざまな経営者の先輩方の29歳当時には、みなさん、
どのような夢や希望、目標をもって、どのように取り組んでいたのか。
少しでもヒントにできれば。という想いから始まったインタビューになります。
現在(いま)では、次の世代の人や、当時の僕と同じように悩みもがいている人達に向けて、うまくフィードバックできたらいいな。という思いで、インタビューに取り組ませてもらっています。
それでは、まず、牛尾会長の29歳のころ。
どのような気持ちや思いをもって、どのようなことに取り組まれていたのか。
お話を聞かせて頂ければと思います。

29歳、30歳のころは、仕方なく会社に入っていた頃です。
というのも、僕が28歳の時に、会社経営をしていた親父が亡くなったんです。
会社の財務状態を調べてみると、大赤字。銀行からは
「このままでは大変なことになるから、銀行が会社を買い取ります。
個人的な財産の半分はきちんと受け取れるようにしますから。どうですか?」
という提案がありました。
僕は大賛成したのですが、兄である長男や他の一族は会社に入っていたので、
会社を処分してしまうと職を失ってしまうことから、断固反対するわけです。
親父がここまで頑張ってきたのに、とんでもない話だ!
なんて言われてね。だから、僕は、
それじゃあ、みなさんで、頑張ってください。
と言って、落着するつもりだったんだけど、銀行からは、
「あなたも一緒に会社をやってくれないと困る!」
と言われたんです。それで、やむえず、会社に入ったんです。

経営者に憧れて仕事をしていたわけではなかったんですね。

全然。僕はね、中小企業の経営者には一番なりたくない。
というイメージを持っていましたから。だから、
軌道にのってきたら俺は会社をやめるぜ~
なんて、29歳位の頃から言っていましたね。
ただ、仕事をはじめてみると、責任感が増してくるわけです。
そして、ああしたほうがいい。こうしたほうがいい。という意見を出すのですが、
僕の意見を出しても周りのみんなと食い違うことが多い。
どうせやるなら、自分自身が納得のいく会社経営をしたい!
と思うようになってきて、33歳で、ある部門だけをもらって独立することにしたんです。
それが、現在のウシオ電機株式会社です。
スタート時は、従業員が200人くらいで、1億円位の赤字がありましたね。
ただ、それから6年。39歳のときに上場したんです。当時、一番早かった。
それまでは、借金、借金でね。
一生かかっても返せないようなお金。
その借金も、みな、個人補償なんですよね。
それが、上場すると個人補償が取れるんです。
ホッとしましたよね。
そして、43歳のときにようやく借金がなくなったんです。

これまで、くじけそうになったりしたことはなかったんですか?

何度もありますよ。
独立をして、2年くらいたったときに、
日本中、空前の不況が来たんです。
当時の池田内閣の所得倍増論で、
上向きになっていた景気の反動が押し寄せてきて、
主要取引先のリコーとか色んな会社が倒産寸前の状態。
僕たちも倒産するような状況まで追い込まれましたが、
そうなったらそうなったで、やめたらいい。
かえって、経営者が辞めれるんだからいいじゃないか。
と思っていましたね。
ちょうどそんな頃、映画館の映写機を納入していた代理店が潰れましてね。
仕方がないから僕の会社で代理店を引き取って、
直接、映画館にフィルムのいらない映写機などを売るようになったんです。
すると、そこからどんどん発展していきましてね。
世界中の5万館位ある映画館のうち、4万館くらいはうちの製品を使ってます。
東京ディズニーランドのプロジェクションマッピングも弊社の製品ですね。

潰れた代理店を引き取ったおかげで、現在のように、大きく展開が広がったんですね。

そうですね。
先を読んでとか、そういったものでは全然なかった。
ただ、学生時代から勉強していたサルトルや実存主義の思想は影響していると思います。
自分が必要としなくても、相手が必要としてくれるのであれば、それも自分の実存。
エグジスタンスの一つ。という思想です。
僕は、やる気はないし、やりたいことも特に無かったけれども、
周りが必要としてくれるから、その必要のために生きようとしていた。
そして、それも一つの自分自身の姿なんだ。という考えがあったんです。
ですから割と何事にも前向きになれていたんです。

会社を大きくしていく上で気をつけていたり、
経営で意識をされていたことなどは何かありますか?

僕はそれほど、経営が好きじゃないんです。
だから経営にのめり込まない。
一番多忙なときでも、友達とご飯を食べたり、お酒を飲んだり、芝居を見に行ったり。
今でもそうですけど、それがよかったんじゃないかな。

読書もよくされているとお聞きしましたが、
今でも毎日2時間くらい読まれているのですか?

読んでいますよ。
現在は、インターネットなどで、前よりも情報が急に入るから、
本を読まないで、情報の結果だけをとる人が多いでしょ?
昔は、本を読んで、行間で物事を考えるということをして、自分を高めていたのですが、IT社会は人間を駄目にしてしまうんですよね。
ITにおぼれないで、ITを活用するのならいいんだけどね。
世界の40億人くらいの人が同じ情報を持って、同じような判断をしているということは、大変に気持ちの悪い社会だよね。
ITで自分の判断を決めるなんてのはとんでもないことだと思っています。

確かにそうですね。みんな同じ情報に流され、振り回され、
知らず知らずに同じ方向ばかりを向いているのかもしれないですし。
では、どのような本を読んだらいいのでしょうか?

今の若い人達が読んでいないのは、哲学だね。
フィロソフィーが無いんですよ。
結果だけを読んで、情報として捉えて、得をするような知識を得ようとするんですけど、
人間はなんの為に生きるのか。
ということをきちんと考えなきゃいけない。
死ぬまでずっと考えなければいけないんじゃないかな。
それが、現在では、思考が抜けて、結果だけを求めてしまう人が多いんでしょうね。結果だけだったら、そこに競争力は無いんです。
ただ、一方で、ITが発達したことによって、自分で起業する人が多くなってきたから、自分で経営責任を担う。という喜びと辛さを担っている人の数は増えたでしょうね。
ちょっと違うのは、5年か、6年で、成功だ!と喜んだり、
駄目だったらすぐに職を変えたりと、見切りが早い人は多いですよね。

ほかにも、ITが発達したことによって、情報が多くなりすぎて、
何を見て、何を読んで、何を勉強したらいいのか。
わかりにくくなってしまっている時代でもあるのかな。とは思います。

だからいいんですよ。
上手に選んだ人が成功するわけですから。
みんなに聞いて、みんなと同じようにやっていても、絶対に成功はしない。
どの情報が自分にとって必要で、どの情報が社会に向かって必要か。
自分の考えで決めれるんです。
それで失敗して、自分の考えが駄目だったとしても、諦めがつくし、もう一回やり直せばいいわけです。
自分で考えるしかないんですよ。
ぶら下がりの洋服は駄目です。
ある人が言ったから。といって、それを全部鵜呑みにしてやってしまうのは全然違います。
浅井さんはいま、何歳ですか?

34歳です。

これからですね。
やっぱり、30代のときに、めっちゃ働かなくちゃ駄目です。
僕は家に帰ってからは夜1時までは本を読んだりして、情報収集をしていました。
人よりもより多くの知恵をもたなきゃいけない。
知恵の勝負ですよ。
ただ、知恵の背景には、体力がいるので、運動もして、自然と接したりもしていました。
健康でない人は、知恵が出ないですから。
頑張ってくださいね。

ありがとうございます。
では、最後に色紙に、メッセージをお願いします。

果決というのは、果物が小さいうちに間引く決断のことなんです。
10ある実のうち、間引いて1個か2個にする。
1800年くらい前の中国の言葉ですね。
経営というのは果決なんです。
色んないい話が世の中にはいっぱいあるでしょ。
これもやってみたい。あれもやってみたい。って。
いっぱいある中からどれを選ぶか。
自分がやって、どれが成功するか。
将来も続くかどうかも含め、選ばなければならない。
それをみんないくつも手を出してしまうんですけど、選ぶ。というのが大事。それを果決というんですよ。
果決というのが一番のポイントなんです。

今日はどうもありがとうございました。